アダプテッド・スポーツの由来

矢部 京之助 (名古屋大学名誉教授)

1.adapted sport あるいはadapted sportsの用語について

馴染みの薄い用語ですが、アメリカ版の著書に記述があります。

・Karen,P.DePauw & Susan,J.Gavron: Disability and Sport, Human Kinetics. Champaign. 1995. の第1章Introduction to Sport and Individuals With DisabilitiesのDisability Sportの項(p.6)に、~handicapped sports, sport for the disabled, adapted sport, disabled sport, wheelchair sport などとともに記載されています。

・Ronald,C.Adams, et al. Eds.: Games, Sports and Exercises for the Physically Handicapped. Lea & Febiger. Philadelphia.1982. の第8章は Adapted Sports, Games, and Activities(pp.204-338)です。

2.アダプテッド・スポーツのデビューの背景

1993年に横浜で開催した9th International Symposium on Adapted Physical Activity の「Adapted Physical Activity, APA」の日本語訳が発端です。特に「adapt」の翻訳が難題でした。適応、適合などの直訳ではAPAの理念にそぐわないとしても、組織委員の矢部、草野、中田の知力では適訳を見出せなかったので、身近なテーマの「第9回障害者ヘルスフィットネス国際会議」と意訳した次第です。≪総説082≫

3.アダプテッド・スポーツの提唱

9th ISAPA開催後もAPAの意訳が脳裏に焼き付いて離れませんでした。そこでAPAの意味を分かりやすく表わす言葉として、adaptedはリハビリテーションやレクリエーションなどと同様に発音のまま表記し、physical activityについては主体的に取り組む意味合いのスポーツを採用しました。後者の理由は、直訳した身体活動では学術用語風で馴染みにくく、体育にしても先生と生徒といった関係から実践者の受け身のイメージが浮かぶからです。

したがって、アダプテッド・スポーツ(adapted sports, AdS)は、adaptedとphysical activityを合わせた日本語の造語といえます。具体的には、スポーツのルールや用具を実践者の「障害の種類や程度に合わせたスポーツ」であり、「その人に合ったスポーツ」という意味合いになります。その対象は、障害者や高齢者など身体能力の低いひとたちです。≪総説065, 総説076, 総説089≫

このアダプテッド・スポーツの概念は、障害などのある人がスポーツを楽しむためには、その人自身と、その人を取り巻く人々や環境をインクルージョンしたシステムづくりこそが大切であるという考え方に基づいています。≪資料044≫

(草野・中田さんに議論に加わって頂いた。AdSは現JASAPEの機関誌名の英文表記に採用された)

4.アダプテッド・スポーツ

「アダプテッド・スポーツ」を最初に提言したのは、女子体育(1994)ですが、用語の補足として括弧書きで障害者スポーツ学と記載しています。この雑誌の出版はDePauw(1995)の発刊前ですし、パラリンピックと同様に、和製英語のつもりでした。おそらくAdams(1982)の著書の記憶の一部が残っていたのかもしれません。いずれにしてもカタカナの簡略化をねらったものです。

5.英訳

英訳はAdapted Sportsとし、スポーツ の複数形を用いています。スポーツ種目と理解してもかまいません。また単数形としたスポーツの総称と捉えても可です。

6.日本体育学会専門分科会に登録した名称

(社)日本体育学会専門分科会に登録した名称のアダプテッド・スポーツ科学の表記に中黒をつけています。これは、単語の並列を避けるために、外来熟語の単語の区切りとして使っています。訳の分からないカタカナの羅列を避けたいからです。勿論、中黒の有無に関しては、出版社などの規定もあるでしょうから固執しません。

参考文献

総説065:矢部京之助,斎藤典子:アダプテッド・スポーツ(障害者スポーツ学)の提言~水とリズムのアクアミクス紹介~.女子体育.36:20-25, 1994.

資料044:矢部京之助:アダプテッド・スポーツの提言.ノーマライゼーション.12: 1 7-19, 1997.

総説076:矢部京之助:アダプテッド・スポーツと障害をもつ人の体力特性.東海保健体育科学.19:1-11, 1997.

総説082:矢部京之助:長野パラリンピックにおける科学研究と国際会議~アダプテッド・スポーツ科学の芽生え~.バイオメカニクス研究.2:297-302, 1998.

総説089:矢部京之助:アダプテッド・スポーツとパラリンピック.学術の動向.11: 54-57, 2006.

(2011.7.10)